本屋冥利に尽きるであろう場面に遭遇した話、または谷根千危険地帯
谷中の「ひるねこBOOKS」様へ精算に伺うついでに、谷根千町歩きしてきました。
やっぱり歩きがいのある素敵な町なのですが、谷中銀座近辺がものっそい観光地化しててびっくり。
岸惠子も佐田啓二も出てない方でおなじみの、「君の名は」効果なんでしょうか?
例の階段では、老いも若きも海外の方も、列をなして写真撮影中でした。
紙バカで本バカでカフェバカな私にとって、谷根千は兎角誘惑の多い危険地帯。
本日も無事、沢山の本屋さんと雑貨屋さんに引っかかり、荷物は重く、財布は軽く、積読本の山は高くなりました。あと、紙ものの置き場がさすがにヤバい。
そして、立ち寄った某古本屋さん(名前出してもたぶん大丈夫そうですが、一応ぼかしておきます)で、欲しい本ばかりの棚を眺めていたところ、ちょっと素敵な出来事がおきたのです。
それまで、岩波文庫を熱心に見ていた若い男性が、店主さんに「あのー、すいません。何か、面白い本を1冊紹介してくれませんか?」とひとこと。
うわー!それ、その質問、本を売ってる人間だったら1度はされてみたいと思うやつだ!でも、実際にされたら確実にテンパるやつだ!
どうする?どうする?店主さん!もう、私の耳は2人の会話に釘付けです。
案の定、店主さんはかなり慌てた様子でしたが、切り返して曰く「そうですね。例えば、どんな感じの本を読みたいですか?」「文学と読み物だったらどちらになさいます」
むっちゃセオリー通りの質問だ。そうそう、まずはお客様の志向を探らないと、店主さん、分かってるぅ(なぜか、上から目線)
しかし、「どっちもお任せしますよ!」と明るく答えるお客さん。潔い方です。
ここで、店主さん長考。
私は、「私がこのシチュエーションで同じこと聞かれたらどれ勧めよう?」と、付近の棚を物色しながら、店主さんの返答を待ちました。たまたま目の前に鴻巣友季子さん訳の「嵐が丘」があって、相手が女性だったら100パーセントこれを勧めたいのですが、サブカル好きそうな男性だしなあ。いま手に持ってる「時の娘」という時間SFのアンソロジーも、確実に面白いと思うのですが、これは、私が買うし。
などといらぬ妄想に浸っている私をよそに、店主さんの心は決まった模様。
1冊の単行本をお客さんに差し出すと、「この作家、七十年代に活動していたんですが、後のサブカルチャーに大きな影響を与えてます。生前はあまり評価されなかったらしいですけどね」「この当たりで、お酒を飲みながら読むのにぴったりですよ」と、説明を始めました。
私の位置からは、なんの本かは分かりませんでしたが、確かに、お客さんの雰囲気にぴったりの選書みたい。
「本当は、100円の本でもご紹介すべきなんですが、いまあんまり把握出来てなくて、すみません」と言う店主さんに、
「いや、それをいただきますよ」と爽やかに即決したお客さんは、「この本が面白かったら、また来ますね」と言い残して店を店を後にしたのでした。
さて、店主さんが何の本を紹介したか、見当のつかなかった私。自分の本をレジに持ち込む時、もう一人の店員さんに、「あのー、すみません、差し支えなければ何の本を勧めたのかだけ、教えてください」と恐る恐る聞いてみたところ、快く教えてくださいました。
チャールズ・ブコウスキーの本(「酔いどれ紀行」か「パルプ」だったんだけど、肝心のタイトルを失念)だそうです。
確かに、ブコウスキーが似合う雰囲気のお客さんだったなあ。
たぶん、また来てくれるんじゃないでしょうか?
ちなみに、「いやー、私が同じ事聞かれたらどうしようって思って一生懸命棚見ちゃいましたよー」と店員さんに言ったところ、そこから私が「嵐が丘」の魅力を語る展開に、「一大ラブロマンスなんです!」という私に、その店員さん(女性)は、「それじゃあ私も読んでみようかしら」と言って下さいました。
顧客サービスでおっしゃったとしても、嬉しいです。
最後に、自分を戒めるためにも、本日のお買い物リスト。
〈本以外〉
干支(未)の剪紙、古いビールのラベル、狐柄のラッピングペーパー、犬と猫のクロモス、キノコのクロモス(クロモスは、昔流行した紙雑貨で、糊の付いてないシールのようなもの)、いせ辰の千代紙、岩合光昭撮影パンダのシールブック(これ企画した人、天才だと思う)
〈本〉
入江敦彦「英国映画で夜明けまで」、「西洋故事物語」上下、「ロマンチック時間SF傑作選 時の娘」、「安井かずみのおしゃれ泥棒」、「プロ野球大辞典」、鹿島茂「乳房とサルトル」、「D坂文庫2017年夏号」
……あっきらかに買いすぎですね!
【本日の5冊】
- 作者: チャールズ・ブコウスキー,中川五郎
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 1995/12/01
- メディア: 単行本
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- 作者: エミリー・ブロンテ,鴻巣友季子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2003/06/01
- メディア: ペーパーバック
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