佐藤亜紀「醜聞の作法」、柴田元幸編「いずれは死ぬ身」、バベルの図書館「聊斎志異」

 小説を沢山読むぞチャレンジ第二週です。
 今週は、小説以外の本に色々手を出してしまったのと、後半コラージュ作成にはまりまくってほとんど読まなかったので、低調です。


4. 佐藤亜紀「醜聞の作法」

醜聞の作法 (講談社文庫)

醜聞の作法 (講談社文庫)

 「私にもう少し教養があったら100倍楽しめるのに!」そう思わせてくれる小説家が、現在の日本にいるっていうのは、実に稀有なことだと思うのです。

 本作は18世紀後半のフランス、マリー・アントワネットの時代ですね、を舞台にした書簡体小説。ある侯爵夫妻の夫婦喧嘩にパンフレット(非公式の出版物)が絡むことで、リツイートにつぐリツイートの末、本人特定、公衆を巻き込んだ大騒ぎが起きる様をちょっと皮肉に描いております。
 パリ市民の空騒ぎぶりに現在のネット社会が重ねられていることは容易にわかるし、ストーリーもそれなりにハッピーエンドで何も知らなくても楽しめる作りにはなっているのですが、フランス文学やらフランスの文化に関する知識があれば……と思わせる目配せも沢山あって、それを拾えないことが悔しいのなんのって。

 佐藤亜紀さんの小説は、実に簡潔で読みやすいのですが、そこに注ぎ込まれている教養たるや、めまいがしそうなレベルです。
 小説にコスパを求めるのは野暮のすることながら、コスパ最強の小説であると、胸を張っておすすめできます。

5. 柴田元幸編「いずれは死ぬ身」

いずれは死ぬ身

いずれは死ぬ身

 翻訳家の方のアンソロジーというのは、今まで読む機会のなかった作家や、聞いたこともないような作家の作品を読めるので、実にありがたいものです。
 柴田元幸さんや、岸元佐和子さんのように、「お客を呼べる」翻訳家さんのアンソロジーは、売る側としても売りやすいらしく、いろんな趣向のものが出ていますね。

 「いずれは死ぬ身」の場合、特にテーマなどはないようですが、タイトルから感じられる乾いたユーモアが、共通項になっているかな、と。

 一番好きな作品は、まさかの大御所(恥ずかしながら初読)ウィリアム・バロウズの「ジャンキーのクリスマス」。これ、すごくいい話なんですよ!
 あと、ものすごく長大なメニューのある中華料理屋が出てくる、スチュアート・ダイベックの「ペーパーランタン」(物語の主軸が、この中華料理屋じゃないのが少し不満)、
巨大ナマズと格闘する老人をずっと監視するリック・バスの「準備、ほぼ完了」が気に入りました。

6. バベルの図書館「聊斎志異

 ボルヘスの小説は私には難しすぎますが、アンソロジストとしてのボルヘスさんとは、割りとウマが合いそう。河出文庫で先日読んだ、「ボルヘス怪奇譚集」も大変楽しかった。
 一方、聊斎志異は、南伸坊さんの漫画化作品がすごく好きで、機会があったら読もうと思っておりました。そしたらなんと、ボルヘス選のバベルの図書館シリーズに収められているのを発見。これは良い機会と読む事に。
 いや、面白かったです。突拍子のない幻想譚としての面白さもありますが、一番興味深かったのは、作中人物の倫理観がなんか変な事。
 「生首交換」という話なんて、仲良くなった人外(この時点でおかしい)に、「何かして欲しい事があるか?」と問われて、「妻は良い妻だが、器量がアレなので、そこを何とかして欲しい」と頼む主人公、首をすげ替えられても別に不満も無さそうな妻、2人とも特に罰せられることもなく、一家が栄えてめでたしめでたしなので、作者的には首のすげ替え上等なのでしょう。

 収録作に変身譚が多いのは、ボルヘスの好みなのかな?

【本日の五冊】

マリー・アントワネット 上 (角川文庫)

マリー・アントワネット 上 (角川文庫)

英仏文学戦記―もっと愉しむための名作案内

英仏文学戦記―もっと愉しむための名作案内

つまみぐい文学食堂 (角川文庫)

つまみぐい文学食堂 (角川文庫)

ボルヘス怪奇譚集 (河出文庫)

ボルヘス怪奇譚集 (河出文庫)


仙人の壺 (新潮文庫)

仙人の壺 (新潮文庫)