ブックカフェは不健全なのか?

遊郭部 (@yuukakubu)さんが8:31 午前 on 水, 5月 16, 2018にツイートしました。
清算の本を自由に手に取って読めるブックカフェというものは、本は集客アイテムに過ぎず、カフェで採算を取っている。委託制を利用して売れなくても書店側には痛手はない。仮に本が痛んでも返品できる。版元や著者には利益は還元されない。こうした仕組みは健全とは思えず、俺は嫌いだよ。

@yuukakubuさんのツイート: https://twitter.com/yuukakubu/status/996533500902756352?s=09

 

    Twitterでこの様なツイートをみかけました。

(ツイートの埋め込みがうまく行かず、コピペしてます)

     Twitter上にはこのツイートに共感する方が多いらしく、いいね、リツイートともに3000を超えています。

    なるほどー、当節のブックカフェ流行、とりわけ精算前の書籍を読めるブックカフェに対しては、モヤモヤされてる方が多いんだなあと、興味深い反面、ツイート主さんは書籍の販売やブックカフェの実情について、少し誤解されていると感じました。

    私は、ブックカフェの専門家ではないですし、内情に詳しいわけでもないのですが、私の知識の及ぶ範囲でこの誤解について、解説しようと思います。

 

傷んだ本は簡単に返品出来るのか?

    まず、元のツイートにある「委託制」の説明が必要かと思いますが……

    ひらたく言ってしまえば、書店が一度仕入れた本を出版社に返品出来るという制度のことです。

    書店が書籍を仕入れる時、もちろん出版社に代金を払うわけですが、何らかの理由で売れ残った書籍に関しては、返品するとお金が戻ってきます。

    ホントはもっと複雑な制度で、イレギュラーな適用もむちゃくちゃ多いんですが、今回の議論に関係あるのは、書籍は基本的に返品できる、という一点かと。

 

    で、カフェなどで傷んでしまった書籍を返品出来るかというと、うーん、返品出来る時もあるし、出来ない時もあるかと。

    書籍の返品可否と言うのは、必ず返せるとか返せないとか決まっているものではないんですね。

    どの出版社の書籍なのか?(例えば、岩波書店の本はよっぽど何かないと返品不可)どういった経緯で仕入れたのか?出版社関係者と書店側の信頼関係、あと、汚損の度合いなどで返品の可否は変わってきます。

 

    ただ、汚損の原因が明白に書店側にある場合は、返品不可能な場合が多いです。

    汚損と並べるのはどうかと思いますが、書店側が著書を招いてサインしてもらった場合、そのサイン本は返品不可。書店側で責任を持って売り切る必要があります。大先生にサインしてもらったはいいが、サイン本が全然動かなくて冷や汗、なんてのは良くあるお話。

 

    個人的にはカフェでの汚損は店側の責任なので、返品は難しくなると考えています。

     少なくとも、最初からじゃんじゃん返品するつもりで仕入れているブックカフェは無いのでは?出版社との信頼関係が損なわれて、「あの店の返品は受けない」ってなったらその場でアウトですから。

 

 

そもそも、カフェで書籍を扱うとそんなに傷むのか?

    カフェ併設の本屋さんをやられている方に聞いた話だと、思っていた以上に汚損は少なかったそうです。多くても、月に一冊程度だったはず(具体的な数字を出せなくてすみません)

 

    それを聞いて思ったのは、流通過程で汚損するリスクより、ずっと低いんじゃないかなってこと。印刷所から出版社(の、倉庫)、出版社から取次、取次から書店に輸送される過程で、人の手を経ている以上、うっかりぶつけてしまったり、落としてしまう事はよくありますし、普通に陳列していても本にはホコリがかぶるし汚れます。

 

    本を汚すなんてとんでもないとお思いかも知れませんが、本が物体で、それを扱っているのが人間である以上、一定の汚損は避けられないのです。

 

返品出来るから売れなくても書店側に痛手はないのか?

    もし、本当にそうなら、書店ほどイージーな商売はないわけですが……。

 

    書店を維持していくには、人件費家賃光熱費その他の経費がかかりますので、仮に入荷した本を全部返品出来てお金がまるまる返って来たとしても、損益は膨れ上がるだけです。

 

    カフェの客引きと考えているにしても、書籍の選書をしたり、新刊の情報を集めたり、非常に煩雑な返品の手続きをしたり、新刊を取り扱うためにかかる諸々の手間は馬鹿にならず、その分の人件費がかかることになります。 

 

    そもそも、本なんか売らなくてもいい、客引きになればいい、と考えている人間が品揃えした本棚が、集客効果のある棚に成りうるかと言うと疑問です。評判の良いブックカフェは、店主自身に本に関する見識があったり、外部からプロを招いて品揃えしている事がほとんどだと思います。

 

本は集客アイテムに過ぎないのか?

    うーん、もっと集客力のある商材が、いくらでもある気がするんですよ。猫とかインスタとか(よくわかってない)なんかそういうの。 猫嫌いが猫カフェをやるとは思えない様に、本でお客様を呼びたい!って方は、やはり多少なりとも本が好きなんだと思いますよ。

 

    私の知っている範囲だと、逆のケースが多いです。本を扱う商売をしたいけれど、書籍の利益率はあまりに低い(だいたい3割くらい)ので、比較的利益率が高い飲食と組み合わせてなんとか採算をとろうと試みている、というお店。

 

     確かに最近はブックカフェが増えてますが、一方で新刊の書店は減り続けていて、個人の開業となると1軒開業する度に業界騒然というレベルの少なさ。

    個人開業の書店が成り立つ構造がちゃんとあれば、ブックカフェだけが目立つ状況にはならなかったと思いますよ。

 

ブックカフェは不健全か?

    本以外の商材で採算を取ることが不健全だとしたら、じゃあ、何が書籍販売の健全なあり方なんだろうって、考え込んでしまいました……

 

    例えば、良書を的確に品揃えするだけで、地域の人のニーズに応えるだけで、出版社や著者に利益を還元したいという志だけで、本屋を維持運営できるのなら、誰だってそうしたい。だけど、書籍の販売量は20年以上減り続けていて、さらにその少ないパイにAmazonという巨人がくい込んでいます。電子コミックの売上は印刷されたコミックのそれを超えましたし、 近い将来、紙に印刷された本を読む人間は、少数派になるかもしれない。

 

     最近の本屋はイベントにばかり熱心だとか、ホームページばかりかっこいいとか、オシャンティなカフェに本の何がわかるんだとか、専門書売りの泥臭い本屋だった私は、ついつい言いたくなっちゃうんだけど

    ……書籍の販売だけで書店を維持出来ない現状がある以上、店側がなんとか採算を立てよう、利益率を上げようって様々な手を打つのは当たり前の事ですし、そうまでして本を扱いたいって志は、大切にしたいんです。

    「こんなやり方はけしからん」とか、「こんなやり方は不健全」て、表面だけ見てジャッジするのは、ただでさえ貧しい書籍販売の現場をさらに貧しくしてしまうんじゃないかな?

 

    珈琲のついでに手にした本や、ケーキの美味しいカフェで手にした本、それが素晴らしい出会いになって1人の本好きが誕生するかもしれない。

    カフェのオマケで書籍の販売を始めた店が、閉塞感を打破するようなアイデアを生み出すかもしれない。

 

   今はそれを信じて、見守る段階なんだと思っています。

 

【本日の5冊】

 

 

本の逆襲 (ideaink 〈アイデアインク〉)

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まっ直ぐに本を売る―ラディカルな出版「直取引」の方法

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希望の書店論

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本好きさんのための 東京 コーヒーのお店

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本屋、はじめました―新刊書店Title開業の記録

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